10歳までの楽育〜第4章の5

小さい時は、ゆっくりと伸びる。

〜「子どもをゆっくり伸ばす習慣」


種から芽を出した植物は、ゆっくりと葉を広げ、根を張って大きくなります。ここでは肥料や水をやっても、成長を急いでくれることはありません。そればかりか手間をかけたのが逆効果となって、苗を枯らしてしまうことさえあります。
小さな苗には「ゆっくり」の成長リズムがあり
大きな苗には「早い」成長リズムがあります。
植物は苗がある程度の大きさになると、急に伸び始めます。まだ小さい時は、大らかに成長を見守ることを忘れてはなりません。

人間にも大人と子どものリズムがあります。子どもが感じる時間は、大人よりも「ゆっくり」であると言われています。
フランスの哲学者ポール・ジャネによる「ジャネの法則」によると、人は高齢になるのに比例して、時間の流れを速く感じるそうです。
子どもの頃と大人になった現在では、昔の時間の方がゆったりとしていたように感じるは、自分の記憶が曖昧であるためではありませんでした。
同じ場所にいて同じことをしていても、親子では時間の感じ方がずいぶんと違います。子どもは、今のことを考えるだけで精一杯で、先のことをイメージするのが難しいのです。
それにもかかわらず、私たちは日常生活で子どもに「早く」という言葉で大人のリズムを求めることがあります。

一般家庭では、子どもへの「早く」の催促が朝一番からはじまります。
「早く起きなさい」「早く顔を洗いなさい」「早く着替えなさい」「早く食べなさい」「早く支度をしなさい」。
親としては「早くしないと遅れる」ということを伝えたいのですが、無意識のうちに子どもを急かしているようです。
しかし、リモコンのスイッチで電源を入れるように子どもに命令していたのでは、本人の主体性を奪い兼ねません。また「言われたらやる。言われなければやらない」という悪い習慣が身についてしまいます。

【楽育】は、子どもが自らの意思で物事を行なおうとする「内からの力」を育みます。
急かさずに、子どものゆったりとしたリズムを受け入れながら、自分のペースで時間を守れる習慣を身につけさせることが理想です。

わが家では「娘が朝食を食べるのが遅い」という問題がありました。最初は両親が「早くしなさい」と声をかけていましたが一向に解決せず、朝の時間が慌ただしくなっていることに気がつきました。
ここで強硬なやり方を選ぶならば、子どものリズムを無視して一定の時間になると食事を強制終了してしまう方法もあります。軍隊のように体で覚えさせれば、習慣として身につくという考えです。ただし、そのやり方では一時的に命令に従わせることができても、習慣にすることはできません。
大切なことは、子どもが自分ら時間を意識して行動できるようになることです。

私は最も時間がかかる要因(ボトルネック)になるところを観察しました。すると、次の3つのことがわかりました。
(1)テレビのニュースや私が読んでいる新聞に気を取られていること。(2)おしゃべりに夢中で箸が止まっていること。(3)野菜サラダがを最後まで残しており、手をつけるのに時間がかかっていること。
まず、ゆっくりと食事ができるように起床時間を早め、大人もテレビや新聞を見ながら食事をするのを控えました。
次に苦手なサラダを食べられたら、その後で娘が好きなフルーツやヨーグルトなどデザートを出すようにしました。
そして、朝食では子どもに好き勝手に話をさせるだけでなく「今日は何をする?」など、ちょっと先の行動を考えるように会話を意識しました。
娘が出発の時間までに早く準備ができたら、それは特別な時間として何か楽しいことができるように工夫しました。わが家では、絵本を一緒に読む、縄跳びをする、遊びに行く計画を立てるなどして、子どもが自分で作った時間を楽しんでします。

すると、朝食の時に「早く準備をしないと遅れるぞ」と言わずに済むようになりました。
そのかわりに「早くできたら、○○で遊べるね。それには、何をしたらいい?」と前向きに子どもの背中を押してやれるようになりました。
自分がやりたいことや、楽しみが見えてくると、子どもは自分なりにちょっと先のことを考えて行動できるようになるのです。

日産自動車(株)には「SHEFT(シフト)」という、キャッチフレーズがあります。
「SHEFT」には、変える、変革するなどの意味があり、常に新しい時代への挑戦を続ける同社の経営姿勢が、そこに表現されています。
ある日、テレビCMの「SHEFT」の後で、小さなアンダーバーが点滅していることに気がつきました。
「SHEFT」はまるで「どのように変わりたいのか?」を私に聞いているようでした。
そこで、こんな言葉を想いました。
「SLOW DOWN(スローダウン)」



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