第3章の11

寒さに耐えた球根が、春に花を咲かせる。

〜「忍耐力の種まき」


春先にかわいい花を咲かせるチューリップは、私たちの気持ちをほっと和ませてくれるような温かさがあります。
チューリップの球根は秋に植え付けを行い、冬の寒さにあてることが必要です。乾燥させたままにして暖かい室内で管理していると、春になっての花の芽が出にくくなります。
厳しい寒さに耐えることで、チューリップの花芽は育まれるのです。

育児にも寒さにあてるような「厳しさ」が必要な場合があります。
娘が3歳の頃、公園に行った時のことです。友だちと一緒に石を拾って道路に投げて遊び始めました。人や車に当たると危険なので私が大声で叱ると、娘は泣き出しました。その様子を見たほかの子の母親たちは、自分の子どもを叱るどころか守るようにしながら「大丈夫?」と声をかけました。そして、私に向かって「すみませんでした」と頭を下げたのです。
子どもが相手の立場になって考えられる年頃になれば、理解できるように叱ることもできます。しかし、まだ自分と他人の関係がはっきりしない発育段階においては、理屈なしで社会性やマナーを身につけさせることも必要です。

現代の育児では「厳しさ」が敬遠され「ほめる」ことが重視されています。確かに子どもをしっかりほめることは大切です。しかし、同時に厳しさがなければ「忍耐力」を育てることはできません。

「忍耐力」は、我慢ができる力、自分の欲望を抑える力です。
戦後、物が不足していた時代は、誰もが我慢せざる得ませんでした。
一方、現代はモノが溢れており、自分が望むものを簡単に手に入れられます。かくして、「がまんの必要はない」という価値観を持つ人が多くなりました。
司法統計によれば、平成二〇年までの過去十年間の自己破産の申立件数は、172万人を超えています。支払い能力をよく考えずに安易にローンを組むことが、生活を破綻させているのです。
また、国と地方が抱える借金の総額は800兆円を突破して更に増え続けています。今後は少子高齢化、国際競争力低下という悪条の下で負債を返さねばなりません。モノに恵まれた時代が終わりを迎えた時、そこで生き抜くためには何が求められるでしょうか?

【楽育】では、子どもに我慢を覚えさせることで「忍耐力」の種まきをします。
「全て自分の思い通りになることはない。欲しいものを手に入れるには、時間と努力がいる」ことを、子どもが学べるように働きかけます。

現代ではテレビや雑誌、新聞のチラシなど、様々なメディアが広告を通じて消費意欲を刺激します。また、スーパーやコンビニへ買い物に行けば、必ず子どもの欲しがる商品が置いてあります。このような環境において、子どもに我慢を求めることは、相当な親の努力が必要です。
そこでわが家では、ルールを決めて欲しいものをすぐに与えないようにしています。
たとえば、アメは一日一個、日曜日は二個まで。お手伝いや何か良い行いをした日はカレンダーにポイントシールを貼り、一〇個貯まると百円のお菓子を買ってもらえる。高額なおもちゃは、誕生日、クリスマスに買ってもらえるなどの決めごとがあります。
運動会や発表会などで頑張った時の特別なご褒美は、子どもの欲しいものを与えるのではなく家族で食事に出かけて楽しみます。

子どもに忍耐を教えるためには、親の忍耐力を見せることも種まきになります。
たとえば、子どもがお店で「買って!」と駄々をこねて泣きわめくことがあります。そこで親が望みどうりにすれば、「大声を出して騒げば、思いどうりになる」という悪い芽が育ちます。
そんな時に私は、他人から注目を集めても平気な顔で子どもと向き合います。
まず、待つことや努力をすることで欲しいモノが手に入る条件を伝えます。
小額のものであればポイントシールが貯まってから、高価なものであれば誕生日やクリスマスプレゼントの候補にすることを勧めます。
そして、子どもが自ら「今日は我慢しよう」と心に決めるのを待ちます。
そこでは無理にその場から引き離すのではなく、子どもが自から諦めようとする気持ち生き出すことが大事なのです。
時には親子の我慢比べになり、他人の目が気になります。しかし、そこで大人が折れてしまっては、「忍耐力」を得るための機会を逃すことになります。

ただ欲しいモノを子どもに我慢させるだけでは、親への反感の芽を育てます。
「今は我慢するけれど、いつか良いことがある」という希望の種や「ほめられた」「我慢できた」という自信の種を同時にまく必要があるのです。

子どもが我慢できた時、私は寒さに耐えながら土の中でじっと春を待つチューリップの球根を想います。
そして、前向きな言葉をかけてやります。
「よく我慢ができたね。うれしいことがあるように、パパもお仕事がんばるよ」。



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