10歳までの楽育〜第3章の8

広い鉢に植え替えると、大きく育つ。

〜「適応力の種まき」


植物を植える鉢には、適切な大きさがあります。
苗の大きさに対して鉢が大き過ぎると、水を吸い上げることができません。すると加湿の状態になって、根が腐りやすくなります。また、鉢が小さ過ぎる場合は、中で根が詰まって成長が止まります。
鉢底から根が飛び出し、詰まってきたら一まわり大きな鉢に植え替える時期です。
けれども、小さな鉢から極端に大きな鉢へ植え替えを行うと、根の張り方がルーズになります。現在の鉢から一まわりだけ大きくすることで、鉢の外周に添うように根が張り、鉢の大きさに適応して育つのです。

昔から「子どもはすぐ馴染む」と言われるように、子どもには周囲の環境に適応する能力があります。
しかし、最近では「適応力」に欠ける子どもが増えています。
授業中に教室を自由に歩き回ったり、先生を無視して勝手にふるまう行為は、もはや日常の光景になりました。
実は、自分の娘が小学校に入学して現状を目にするまで「学級崩壊」は、反抗心の育った高学年で起こるものだとばかり思っていました。しかし、実際には新一年生の一学期から様々な問題が発生しています。私は教室で「小一プロブレム」を目の当たりにして、その現実に驚かされました。
学校が嫌で登校できない子、人から何を言われても無反応な子、突然に大声を出して他の子に危害を加える子、学校を勝手に抜け出して家に帰ろうとする子など、学校に適応しない光景が日常化しています。

厚生労働省の「労働経済の分析」によると、就職後3年以内に離職した者の割合が高校卒で49・5%、大学卒で36・6%となっており、近年は大卒の離職率が高まる傾向にあります。
これによって、企業は採用や社員教育にかかるコストの増加、事業効率の悪化、企業イメージの低下など深刻な影響を受けています。早期離職の主な理由として、人間関係のストレス、仕事へのプレッシャーなど、会社への「適応力」が不足していることが問題になっています。
「適応力」とは、環境や状況に合わせて自らを変えていく能力です。

《世の中で生き残る生物は最も強いものではなく、最も知性の高いものでもなく、最も変化に対応できるものである》。
これは進化論を唱えたダーウィンの言葉です。
変化に対応できない企業は淘汰されるものとして、多くの経営者がこの言葉を引用し、経営革新を図っています。
現代ではインターネットのコミュニティで、不特定多数のプログラマーが共同で「オープンソース」という無償プログラムの開発を行なっています。そして、魅力的なソフトウエアが次々と生み出されています。今後はプログラムだけでなく、会社の様々な業務がオンラインでの共同作業となります。出会ったこともない人と意見を交換し、円滑にコラボレーションを進めるために、ここでも「適応力」が求められます。

【楽育】では、「適応力」の種まきとして、子どもの世界を広げて新鮮な体験させることが大切であると考えています。
娘が6歳の夏のことです。保育園で毎日同じ友だちと同じ遊びを繰り返していることに気がつきました。
好きな子と好きなことをして遊ぶ様子は、一見すると安定しているように思えます。
けれども、私は違っていました。娘にとって多様な価値観に出会い、新しい体験をさせることの必要性を感じたのです。
小さな鉢に根が詰まり、一まわり大きな鉢に植え替える時が来たのです。

そこで、卒園まであと半年という時期に、遠くの幼稚園に転園させることにしました。
私は新しい出会いの中で、様々な価値観に触れることや、人から教えられることを学ばせたいと思いました。一方で、新しい環境にうまく適応できるのか、期待と不安が入り交じった心境でもありました。

新しい園に入るとすぐに様々な問題が起きました。娘は友だちのグループに入れてもらえなかったり、幼稚園のルールが分からずに戸惑っていました。
けれども、それらがよい経験になりました。次第に新しい友だちを作り、幼稚園のルールを学んでいきました。
私が期待したとおり、新しい環境を体験したおかげで、娘の世界は大きく広がりました。

娘が小学校に入学してからは、機会をみつけては体験イベントに参加しています。体験イベントとは、アートや工作、科学の実験、自然観察、スポーツなどが体験できるイベントです。
そこでは、親はできるだけ見守る役に徹しています。すると必然的に、周りの人たちに質問したり、自分から助けを求めて「適応力」を発揮する機会が生まれます。
イベントの後で「今日は、知らない子と仲良しになれた!」と娘が喜ぶ顔を見ると、
昨日までは蕾だった花が開いたようで、私まで嬉しくなります。



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