10歳までの楽育〜第3章の14

ゆっくり育つ植物が、長く花をつける。

〜「失敗力の種まき」


植物には早く成長するものと、ゆっくりなものがあります。
一年草は種をまいてから大きくなるまでの時間がとても早く、その大半は開花して半年ほどで枯れてしまいます。
一方で果樹は、ゆっくりと時間をかけて大きくなります。そして、ずっと先まで私たちに花と果樹の恵みを与えてくれます。

現代は早いことが称賛される「スピード社会」です。書店のビジネスコーナーにはスピード、時間管理、効率化などのタイトルをつけた本が数多く並んでいます。
また、中高校生の間では友だちから携帯メールは、すぐに返信するのが常識だと思っている人が少なくありません。
「早くなければ勝ち組になれない。早くなければ人を不快にすることもある」。このような価値観に慣れれば、育児においても早さや効率を重視し、自分の子どもにスピードを求める親が増えても不思議はありません。
「もっと早く、もっと多く、もっと確実に」。
それはまるで、子どもが早く大人になることを求めているようです。
親たちは子どもに失敗させないように近道を教えます。なぜなら失敗は時間のロスを生むからです。
けれども、失敗を避けてばかりいて、本当の生きる力が身につくでしょうか?

娘の通っていた幼稚園には、子どもに失敗をさせない親がいました。
園児が鉄棒にぶら下がっていると「そんなやり方では、下に落ちる」と、危険から遠ざけるように母親が鉄棒をやめさせたのです。
またある時は、子どもたちが「せーの!」のかけ声で一斉にフラフープを転がして遊んでいると、「小さい子に当たると危ないからね」と遊びを止めさせた母親もいました。
自分たちで考えて楽しんでいた遊びを大人から注意されて、子どもたちは残念そうにフラフープをしまいに行きました。
転がしたフラフープが当たっても、大事に至ることはありません。むしろ、状況を判断する力を身につける機会になります。
もし、フラフープが当たれば、次からは小さな子に当たらないように注意するでしょう。そして、小さな子どもは周囲に気を配るようになり、危険を察知することを学びます。

失敗をすることで、次にどうすれば良いかを考えて行動する知恵が身につくのです。
小さな失敗の経験は、さらに大きな危険から身を守ることを教えてくれます。もしも、危険を認知する能力を身につけないまま、子どもが道路に飛び出したら、それこそ大事に至ることでしょう。

オランダの「ドラハテン市」では、世界でも珍しい交通安全対策の実験が行なわれました。それは、交差点から標識や車線、信号までも無くしてしまうというものでした。
また、車は右側を走ること、交通の邪魔になる車は移動するという簡単な交通規則に限定しました。ルールを最小限にした結果、ドライバーも歩行者も危険を意識するようになり、事故数は大幅に減少したそうです。
このことから、自分で気をつけるという意識こそが、事故を未然に防ぐのに大切でことが分かりました。
子どもに危険を学ぶ機会をつくることが、子どもを守ることになるのです。

ビジネスの世界ではよく「リスクを取らずに、リターンは得られない」と言われます。失敗を恐れることなく目標にチャレンジする人が成功を手にすることができます。
また、最近はインターネットにおいて、サービス名の後にbeta(ベータ)とつけられているものをよく目にするようになりました。
beta(ベータ)とは、開発途上版という意味を持ち、プログラムのバグ(誤り)のリスクを抱えています。従来の日本企業であれば、未完成な商品を顧客に使ってもらうなど、とても考えられませんでした。しかし、IT社会では失敗を恐れず、顧客にも理解と協力をお願いするという姿勢でなければ、スピーディな開発や事業展開ができません。

失敗を恐れずに何度でもチャレンジする力、失敗を最小限に抑える力、失敗を乗り越える力、それが「失敗力」です。
【楽育】では「失敗力」を育むために、2つのことを心がけます。
(1)十分に時間の余裕を持ち、子どもに失敗の原因を考えさせること。
(2)親が子どもの行動を先読みし、手助けや助言を行なわないこと。

私は家で子どもの勉強を教えていて、苦い経験をしたことがあります。
子どもから質問されると、すぐに「ああ、それはね・・・」と分かりやすく教えていました。しかし、私が丁寧に教えすぎた為に、後になって子どもに全く読解力がついていないことが分かりました。

近道を教えるのではなく、子どもが道を探して自分で答えを見つけられるように働きかけるべきだったのです。

かつて経営の神様、松下幸之助はこう語ったそうです。
《失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる》。

私たちに必要なのは、目先よりもずっと遠くを見ることなのかも知れません。



  前のページヘもどる