10歳までの楽育〜第3章の15

支柱に頼りすぎると、成長が止まる。

〜「自立力の種まき」


背丈の高い植物を育てるには、風の対策が必要です。それには支柱を使って株を支えるのが最も一般的な方法です。しかし、その立て方によっては根を痛めてしまう場合があります。また、支柱を使い続けると植物がそれに依存するために成長が止まり、弱々しく育ちます。
無理に支柱で支えず、自立させるように育てるのがガーデニングの基本です。

自立とは、他者に依存せず一人立ちすることです。
自分の頭で考え、責任を持って行動できる力、それが「自立力」です。

総務省の「親と同居の若年未婚者の最近の状況」によると、全国の20〜34歳で「親と同居の若年未婚者」の実数は、2008年に1098万人。同年齢人口に占める割合は、46・2%となっています。
山田昌弘著『パラサイト・シングルの時代』が出版されてから約10年、学校を卒業後も自立できず、親に基本的な生活を依存して生活する未婚者が現代でも大勢います。

育児を行う親たちが持つ「自立」のイメージは、子どもが自分で身の周りのことを行なえるようになることです。自分で何でもできる子どもは一見すると「自立力」があるように見えます。しかし、実は親からの指示に従って訓練されているだけという場合が少なくありません。

私の娘が通っていた幼稚園には、常に自分の期待に添うように子どもをしつける親がいました。
たとえば、私が幼稚園で遊んでいた子どもに「どんな絵本が好き?」と聞いた時のことです。普通はしばらく時間がかかっても、子どもが返事を考えます。
しかし、気が焦る親は、子どもが考えている時間を待てません。「あなたが好きな本は、○○でしょ」と、回答を急かすように押し付けます。まるで「早くしなさい!」としかられているようで、話をしていた私の方が気まずくなりました。
また、園庭で皆が自由に遊んでいるのに「次は○○ちゃんと一輪車を練習しなさい」と親が友だちと遊びの内容まで指示する姿を目にしたこともあります。
このように親の意向に従うことを子どもに求め続けると、人の顔色を伺うことに慣れて「自立力」の芽は枯れ、依存心が芽生えてきます。

子どもの成長過程をまったく無視し、大人のようなふるまいを求めることは間違いです。なぜならば、子どもが親の期待に応えるために無理に背伸びをしようとするからです。
本来、子どもは様々なことを自分のペースで考えたり、疑問を感じたりしながら行動します。それは「自立力」を育むために必要なことです。子どもが自ら考える過程をスキップして、親が結果だけを求めていると、いつまでも成長の芽を伸ばすことができません。
自分で考えて行動できない人が社会に出ると、他人が決めた手順でしか状況に対応できない「マニュアル人間」や、人の指示を受けなければ行動できない「指示待ち人間」になる恐れがあります。
IT社会では、決められたとおりにこなす仕事は、コンピュータやロボットが行ないます。本来はそれらに指示を出す役目の人間が、常に誰かの指示を待っていたのでは、とても仕事になりません。

【楽育】における「自立力」は、行動の自立よりも心の自立を重視します。
「親」という漢字は、木の上に立って見ると書きます。子どもが自分で成長するための機会を作り、見守ってやるのが私たちの役目なのです。
そして、自立には責任が伴います。

わが家では、娘が小学校に入学した時から子どもが自分の決めたことに責任を持てるように働きかけています。
以前は、朝起きると「顔を洗いなさい。服を着なさい。早く食べなさい。早く用意をしなさい」とひとつづつ指示をしていましたが、ある時からそれをやめることにしました。
親子の信頼関係を損なわないように、徐々に「行なわせる」働きかけから「見守る」働きかけへと移行したのです。
最初は、朝起きる時間を早くして、親が「出発まであと○分」と細かく時間を教えてやりました。
慣れてくると、何時までに何を行なうべきかを親子で一緒に考えました。次に時計の針を紙に描いて、その時間にやるべきことを書きました。その用紙は、朝の時間によく見えるようにリビングに貼っておきました。また、学校へ持参するものはリストに書いて掲示して、本人がチェックできるようにしました。
何度か失敗を繰り返し、娘は時間をかけて自分で学校の用意ができるようになりました。
子どもが自分で「できた」と実感することの積み重ねが「自立力」を育みます。
そして「自立力」はいつか生きる力となって開花するはずです。

春には細くて弱々しい株だった白バラの苗が、秋にはたくましく成長しました。
私は役目を終えた支柱を外して、秋空に連なる雲を見ながら想いました。
誰が種をまいたわけでもないのに、乾いた大地で芽を出し
立派に自立して、野に咲く花々のことを。



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