10歳までの楽育〜第3章の21

よい枝は、外へ伸ばす。

〜「冒険心の種まき」


樹木の枝を剪定するときには、木の内側に伸びた枝を切り落として、外へ外へと伸ばすようにします。内側へ伸ばすと枝が込み合い、風通しが悪くて枯れやすくなります。一方で外側に伸ばした枝は、葉が重ならないために太陽の恵みを多く得られます。

「冒険心」は、成功するかどうか予測できない未知の可能性に、勇気をもってチャレンジする心です。
ビジネスでは「ブルー・オーシャン」という経営戦略論が話題になることがあります。
既存の競争が激しい市場が「レッド・オーシャン(赤い海)」。これに対して、競争のない未知の市場を自ら開拓することが「ブルー・オーシャン(青い海)」です。
企業では韓国のサムスングループが、ブルー・オーシャンを実行しているほか、国内では任天堂「Wii(ウィー)」が、企画・開発の段階でブルー・オーシャン戦略を適用したことで知られています。

実は私自身も仕事で「ブルー・オーシャン」の言葉は意識せずとも、大きな企業と競争をさけて独自の商品開発を行なうに心がけています。たとえば、現代の結婚式では定番の「新郎新婦プロフィールビデオ上映」ですが、私はこれを早い時期に商品化して提案しました。当時はそのようなサービスを行なう会社が他になかった為に、大きな成功を納めることができました。
しかし、数年もすると様々な企業がこの分野に参入してパイを奪い合い、激しい価格競争が起こりました。
私はこの分野での商品力は枯れてしまったと判断して販売を縮小しました。そして、新しい収穫を求めて次の種をまくことにしました。

育児においても「ブルー・オーシャン」を意識しています。たとえば、小学校で英語教育が導入されることもあって、小一の娘の友だちも数人が英会話を習っています。しかし、今のところ娘を英会話教室へ通わせるつもりはありません。今後は英語が得意な子どもが多くなります。しかし、英語を使って仕事ができる職業は限られており「レッド・オーシャン」となります。
これに対して「ブルー・オーシャン」は中国語です。これからの世界経済は、米国と中国がリードすると言われています。中国は2009年の7月にGDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位の経済大国になりました。日本は政治、経済ともに中国との関係が重要になるものと思われます。けれども、現在のところ私の周りに中国語を勉強している子どもはいませんし、感心を持つ様子もありません。

私たち日本人は「人が始めてから自分も始めれば良い」という価値観を持った人が大半を占めます。そのような中で未知の世界へ足を踏み入れる勇気を持った人は貴重な存在となります。
「冒険心」が「ブルー・オーシャン」への扉を開くのです。

【楽育】では、子どもの心に「冒険心」の種をまくために、次の2つを働きかけます。
(1)時には日常の生活から背伸びをして、子どもに未知の体験をさせる。
(2)子どもにとって、何が危険であるかを実感させる。

幼稚園の年長組の時のことです。娘は補助輪を外して自転車に乗れるようになり、喜んで近所を走っていました。その様子を見た私は、卒園までに一緒に自転車で遠出してみたいと思っていました。
そして、秋にその機会が訪れました。普段は車で幼稚園へ通園していましたが、母親が用事で出かけることになり、自転車で行ってみようと思いました。
娘に相談すると、すぐに「パパと自転車で行きたい!」という返事がありました。

私は注意すべき点をよく娘に伝えてから準備を整え、ふたりで家を出発しました。普段はびゅんびゅんと自転車を乗り回す娘ですが、この時ばかりは緊張した表情で、無我夢中で後を付いてきました。私は何度も振り返りながら様子を確認し、細心の注意を払って通園しました。

幼稚園に到着すると、他の保護者から「なんて危険なことを?」という批判の声がありました。幼稚園の先生からも注意されました。
しかし、私は自らの責任で行なったことについて後悔はしませんでした。なぜならば「危険の感覚を実体験で娘に教えることができて有意義だった」と満足したからです。

この体験で道路は危険な場所であること、車は恐ろしい乗り物であることを、しっかりと娘の心に印象づけることができました。
それは、決して本や映像からは学ぶことはできないものでした。

通園はわずか30分ほどの道のりでしたが、自転車での通園は私たち親子にとって忘れられない体験となりました。
その夜の食卓では、娘の興奮が納まりませんでした。
まるで大冒険でもしたように、幼稚園までの道中を話しました。
誇らしげなその声は、大地から芽を出したような喜びに溢れ
まるで、自らの成長を祝福しているようでした。



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