10歳までの楽育〜第3章の22

小さな木は、大きな木よりも先に芽を出す。

〜「思考力の種まき」


春の訪れとともに、森ではこぼれ種から新しい芽が出て、大空に両手を伸ばすように小さな葉を広げます。これはまだ大きな落葉樹が枝だけのうちに行われます。背丈が高い木が新葉をつけた後では日陰になり、小さな芽は枯れてしまいます。そのために、少しでも早く芽を出しておき、太陽の光をたくさん浴びて大きく成長しておく必要があるのです。

ビジネスにおいても、ライバルの動向をよく観察して戦略的に経営を行なうことが重要です。そこで求められるのが「思考力」です。
「思考力」は、自分で考えて結論を出す力です。IT社会ではインターネットを通じて多種多様な情報を収集することが可能です。そのために、情報を収集、分類することに集中するあまり、自分の頭で考えることが怠慢になりがちです。
現代では溢れる情報に振り回され、結果を出せない人がストレスを抱えて「情報洪水症候群」や「思考停止状態」なることが問題になっています。

また、日本人は国際社会から見ると、自分で考えて行動する能力に劣ると言われます。
早坂隆著『世界人の日本人ジョーク集』に、付和雷同しやすい日本人の様子が次のように紹介されています。
《ある豪華客船が航海の最中に沈み出した。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように指示しなければならなかった。船長は、それぞれの外国人乗客にこう言った。
アメリカ人には「飛び込めば自分は英雄ですよ」。イギリス人には「飛び込めば自分は紳士ですよ」。ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」。イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」。フランス人には「飛び込まないでください」。日本人には「みんな飛び込んでますよ」。》
このジョークでは、自分の考えを持たず、行動に自信がない日本人の姿がよく表現されています。

OECD(経済協力開発機構)が57カ国を対象に行なう国際的な学習到達度調査「PISA」の結果が、日本の教育界に衝撃を与えました。
数学、読解力、科学的リテラシーの全ての部門で、日本の高校生の学力低下が浮き彫りになったのです。
そこで問題となったのは、日本人学生の応用力です。知識はしっかり持っていても、それを問題解決のために応用する能力が欠けていることが指摘されました。
これを受けて、文部科学省の新学習指導要領において、各教科で知識・技能を「活用する」学習活動を充実することが決まりました。

知識・技能を活用するためには「思考力」が必要です。
【楽育】では「思考力」は、子どもに自ら考えさせることで育まれると考えています。
そこで、次のことを意識して「思考力」の種まきを行ないます。
(1)考えを広げる。〜多角的に考えさせる。
(2)考えを絞る。〜焦点を絞って考えさせる。分類して考えさせる。
(3)考え方を変える。〜観点を変えて考えさせる。時には逆の発想を求める。

私は日常生活の中で、子どもに「5W1H」で質問することで「思考力」の働きかけをしています。
「5W1H」とは5つの「W」、When(いつ?)、Where(どこで?)、Who(誰が?)、What(何を?)、Why(なぜ?)と、1つの「H」、 How (どうやって?)で物事を考えることです。
子どもの話は「誰が何をした」という内容だけで、終わってしまうのが普通です。
たとえば「Kくんが、Yちゃんを叩いた」と子どもから聞いた時に、私たちは「Kくんは、悪い子だね」という返事で会話を終わらせがちです。
そこで親から「いつ、叩いたの?」「どこで叩いたの?」という質問を追加します。すると、これには事実を思い出すだけで簡単に答えられるので、会話が続きます。
次に「どうして、たたいたのかな?」という質問をすれば、子どもはKくんの気持ちを考えます。そして「ほかに方法はなかったのかな?」という質問で、Kくんがどのように行動すれば良かったのかを考えさせることができます。
このように、他愛のない日常会話の中でも、私たちの意識を変えるだけで、子どもに考える機会を与えられるのです。

また、会話の中だけでなく、紙に書いて考えることにより、自分の思考を上手にまとめて表現できるようになります。
わが家では「5W1H」で文字を書き込める書式をパソコンで作成しておき、いつでも使えるように印刷してあります。これは、絵本の物語、テレビアニメ、ニュースで知ったこと、学校であったことなどを「5W1H」に書き出すときに使用します。
「5W1H」の用紙には、親子がそれぞれ1枚づつ記入します。私は自分で情報を整理しながら、子どもにヒントを与えることで、思考の芽を引き出すように働きかけています。

かつてアメリカの思想家、エマーソンは言いました。
《思考は行動の種子である。》

自分で物事を考える力は、やがて「問題解決力」「倫理観」「主体性の発揮」などの収穫をもたらしてくれます。
私たちがまいた「思考力」の種は、子どもたちの未来で
どんな行動となって開花するのでしょうか?



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