10歳までの楽育〜 第1章の7

アジサイの色は、土の性質で変わる。
〜「育児に必要な夫婦の信頼関係と共通認識」

梅雨時期の風物詩として、私たちの気分を爽やかにしてくれるアジサイ。
古くは万葉集にも詠まれ、現代も多くの日本人に親しまれています。
アジサイは、土壌がどのような環境であるかによって色が変わります。
土の性質がアルカリ性に近ければ赤みがかり、酸性に近ければ青みがかります。
日本では酸性の土壌が多いため、青色のアジサイがよく見られます。

子どもは、育つ環境によって様々な影響を受けます。
そして、環境を左右するのが親の存在です。
「親がどのように育てるか」「親がどのような人であるか」によって、子どもの性格や行動は変わります。
「どのように育てるか」では、親が自らの経験から学んだ価値観が育児に反映されます。
子どもに対して責任感のある親は、子どもが真っすぐ育つように望み、そのためにできることを実行します。
一方で責任感のない親は、子どものことに無関心です。

人間は男女に関係なく「父性」的な面と「母性」的な面を持っていると言われます。
「父性」の強い親は、社会のルールや責任感を身につけさせるために子どもを「しかる」ことができます。一方で「母性」の強い親は、子どもを優しく包み込むように「ほめる」ことができます。
平成20年秋に放送された「土よう親じかん秋スペシャル」(NHK教育テレビ)では、
「ほめる育児」について特集されました。番組のために現役東大生と現役Jリーガーの各一〇〇人に「親からどのように育てられたか?」という調査が行われました。
それによると《東大生は親からほめて育てられ、Jリーグの選手たちは親から叱られて育てられた人が多数を占める》という結果になりました。

現代の育児では「ほめる」ことが推奨されています。しかし、強い心を持つたくましさの芽を育むためには「叱る」ことも必要であることが分かりました。
育児には「父性」と「母性」の両方が必要であると言われるように「ほめる」育児と「しかる」育児は二者択一ではありません。状況に応じて使い分けることができるのです。
「ほめる」ことができるから「叱る」ことに意味があり、
「叱る」ことができるから「ほめる」ことに喜びがあります。

「親がどのような人であるか」は、子どもの様子を見れば分かります。
いつもイライラしている子どもの親は、短気でストレスを抱えているようです。
一方で、落ち着きがあり聡明に見える子どもの親は包容力があり、ゆとりを持っているように思います。
「親がどのような人であるか」は、個人の性格や行動ばかりが重要ではありません。
夫婦の関係が子どもに与える影響は多大なものです。
【楽育】では、夫婦の信頼関係がしっかりしていることや、夫婦が育児に共通の認識を持つことを大切に考えています。
子どもから見て「お母さんはほめてくれるのに、お父さんは何も言わない」。
「お父さんは叱るのに、お母さんは無関心」では、大事なことが子どもに伝わりません。
たとえば、母親が子どものしつけで厳しく接している時に、父親が「まぁ、いいじゃないか」と適当に甘い顔をすることがあります。さらに、ここで父親が母親を非難するような態度をとると、パートナーの努力が台無しになります。
こんな時に父親は、どうしたらよいでしょうか?
私ならば、叱られた子どもの気持ちを受け止めながら、母親の考えを自分の価値観と言葉で子どもに伝えてやります。
子どもは叱られると、それだけで頭の中が真っ白になります。
「叱られて、つらかったね」と第三者が声をかけてやることで、子どもはホッとします。そると緊張がほぐれて、よく耕した土のように頭が柔らかくなり、水がしみ込むように親の話を理解することができます。

現代の育児では、母親の孤独が問題になっています。
「夫が育児に手を貸してくれない。大変さを理解してくれない」という母親からの声は絶えることがありません。仕事から帰ってテレビやゲームで自分の時間を楽しむ夫を、子どもの前で「何もしてくれない」と非難する妻もいます。すると、夫は「朝から晩まで働いて家族の暮らしを支えいるのに、なぜなんだ?」と反論し、喧嘩なることもあります。
夫婦の言い争いや責任の押し付け合いで、子どものためになることは1つもありません。

私が新入社員として広告会社で働き始めた頃、不思議に思っていたことがありました。
それは、幼い子どもがいる先輩が、仕事後もまっすぐ家に帰ろうとしないことでした。
ある日、その理由を聞いてみると「会社でドロドロになったまま家に入れないから、酒を飲んで清めてから帰るんだ」と寂しそうに語ってくれました。

日常生活では父親にも母親にも大変なことがあります。それは、どちらが大変かの競争ではありません。ふたりは「育児」という大切な目的を共有するパートナーです。相手を信頼し、共通の認識を持つようにお互いが努力すべきです。もし、相手が「何かをしてくれない」と感じることがあれば、まず自分の働きかけについて考えてみる必要があります。

イソップ寓話に「北風と太陽」という物語があります。
《ある日、北風と太陽が、旅人の上着を脱がせることで力くらべをします。最初に北風が大風を吹かして旅人の上着を脱がそうとします。しかし、旅人は寒さでますます上着を押さえ込んでしまい、服を脱がせることはできませんでした。
次に太陽がさんさんと旅人を照りつけました。
すると旅人は暑くなったために、自分から上着を脱ぎました。》



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