10歳までの楽育〜 第1章の5

種まきと剪定には、ふさわしい時期がある。
〜「適切な時期に、育児を行なう」


春に咲く花は秋に種をまき、初夏から秋に咲く花は春に種をまきます。
種まきの時期を間違えると、発芽せずに途中で枯れるリスクが高まります。
また、剪定は花が終わってからすぐに行なうものと、冬の休眠期に行なうものがあります。剪定時期を間違えると花が咲かず、株を弱らせることがあります。

育児にも何かを行なうのに適切な時期があります。
子どもの成長は早く、同じような時が再び訪れることはありません。
実は私には育児のタイミングを逃してしまい、後悔した経験があります。
子どもが生まれることを知った直後から、赤ちゃんと手話でコミュニケーションを取る「ベビーサイン」に興味を持ちました。
「ベビーサイン」は、アメリカで生まれた育児法で、赤ちゃんが言葉をしゃべりはじめる前に、手話を通じて会話できることで評判になりました。
赤ちゃんと会話ができれば楽しいし、相手の欲求を親が理解できれば、お互いにストレスを感じずに済むと思いました。
また「ベビーサイン」を経験した子どもは、積極的で表現力がある子どもに育つと聞いていました。私はすぐに本を購入し、準備をしておきました。
しかし、いざ娘が誕生すると日々の忙しさに追われ、そのことを忘れていたのです。
気がついた時には、簡単な言葉を発するまでに成長していました。

私は以前から「コミュニケーション」を、幼児期で重要なものの一つと考えていました。
しかし、そのことを強く意識しなかったために、あっと言う間に貴重な体験の機会を失ってしまいました。
種まきの時期を逃してしまったのです。

また、種まきを早くしすぎたことで失敗した例もあります。
その家庭では、両親ともに英会話が達者でした。ふたりは、子どもが誕生したら少しでも早く英語になじませようとしました。
幼児の時から英語を学ばせると発音を吸収しやすいと考えて、日本語と英語の両方で子どもに語りかけました。
子どもには、日本語と英語の違いは分かりません。
最初は思惑通りに、英語を習得しているように思われました。
しかし、両親はやがて自分たちの過ちに気づいて、英語の早期教育をやめました。
日常生活で英語で話す人は誰も周囲いません。両親が相手でなければ、うまく会話が成立しなかったのです。
コミュニケーションの向上を目的として、子どもに英語を習わせたのに、それが障害になってしまいました。
この種まきは、時期が早過ぎたのです。
花の種を早い時期まいても芽が出ません。植え直しをすればかえって開花を遅らせることになります。
子どもが何かを学ぶにも、それにふさわしい時期があるのです。

わが家では夫婦がパソコンで仕事をしているため、人から「子どもにもパソコンを教えるの?」と聞かれることがあります。
早くIT機器になじんだ方が、早く使いこなせるようになると思われているようです。
確かに操作を覚えるという面では、大人よりも子どもの方が吸収が早いかも知れません。
しかし、我が家では幼い子どもにパソコンを教えるようなことはありません。なぜならば、幼児期の子どもがパソコンの操作を覚えるメリットは皆無だからです。
現在の子どもが社会人になる頃には、ハードもソフトもさらなる進歩を遂げて全く姿を変えているはずです。
それに、パソコンは目的のための道具に過ぎません。
一流のシェフが料理人を育てるのに、食材や味のことを知らないうちから、調理器具の使い方を教えるでしょうか?
そんなことはきっとあり得ないはずです。

【楽育】では、幼児期には文字や言葉を覚えたり計算ができるようになるよりも、感性を磨くことが大事であると考えています。
人は「五感」通じて、あらゆることを感じることができます。
「五感」とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つの感覚です。
たとえば海へ行き、遠くの島を見て(視覚)、潮騒を聞いて(聴覚)、砂に触り(触覚)、潮水をしょっぱいと感じ(味覚)、磯のにおいをかぐ(嗅覚)。
このような体験を積み重ねるほど、子どもの感性は豊かになります。

ガーデナーが季節をよく考えて、庭仕事を行なうように
「子どものために、いま何を行なうべきか」を考えて、最も大切なことや今しか出来ないことを優先して行なうことが私たちには必要です。

スポーツ関連商品のナショナルブランド「ナイキ」のCMで「JUST DO IT」というキャッチフレーズが表示されるキャンペーンがありました。
この《JUST DO IT》は、「やるしかない」「さっさとやってしまいなよ」など
いろんな意味に取ることができる言葉だそうです。
私は次のように訳してみました。
「今の自分にできることを、精一杯やるだけさ」。



  前のページヘもどる