10歳までの楽育〜第3章の9

芽を出すときの力は、想像を超える。

〜「精神力の種まき」


植物は芽を出す時にすさまじい力を発揮します。数年前に兵庫県相生市の道路わきでアスファルトを破って出てきた「ど根性大根」は、全国で話題になりました。その後も各地で相次いで「ど根性野菜」が発見されました。
わが家でも、石を動かして伸びる「ど根性球根」や、砂利の隙間から芽を出す「ど根性ノースポール」を見つけました。
きっと真っ暗な土の中でかすかな太陽の光を感じて、あらん限り力で芽を伸ばし、壁を打ち破ったのでしょう。

人生には自ら打ち破らねばならない壁が、何度も立ちはだかります。
いじめ、受験、就職、失恋、失敗、敗北、裏切り、病気、事故、別れ。
そんな時、絶望感に負けず、壁を打ち破るために力の源となるのが「精神力」です。
「精神力」とは、心を支える気力のことです。
スポーツの世界では、「精神力」がトレーニングによって肉体とともに鍛えられるとされています。また、様々な体験を積むことや失敗することで「精神力」は身につくとも言われます。
しかし、時には並大抵の精神力では乗り切れない壁が現れることもあります。

平成20年度の自殺者は3万2249人でした。11年連続で3万人を超える深刻な状況が続く中、10代〜30代の自殺者は増加傾向にあります。
自殺理由の内訳では、健康問題が1万5153人と最も多く、経済・生活問題7404人、家庭問題3912人と続きます。
現代社会では、多くの人々が生きていこうとする力を失いかけています。
真っ暗な心の闇の中に、生きるか死ぬかの選択が浮かんだ時、最後の支えとなるかすかな光。それこそが「愛」であると思います。
植物の「生きる力」を育むのに太陽の光が必要なように、逆境に負けない強い精神力を身につけるために、親の愛情は不可欠です。

【楽育】では、親が子どもに愛情を実感させることが、大切であると考えています。
子どもはいつも、親の愛情を求めています。それに応えるためには、私たち親が子どもに対してしっかりとメッセージを送る必要があります。ほめる時はもちろん、叱る時も、突き放す時でさえ「そこに愛情があるか?」を自らの心に問いかけます。

例えば、子どもが何か悪いことをした時「悪い子だな、いいかげんいしろ!」と言えば簡単に済みます。しかし、愛情を込めて叱る時には、子どもの全てを否定することなく、その行為だけを正します。
なぜそれが悪いのか、人がどういう気持ちになるのかを子どもが理解できるまで話して聞かせます。大声で叱ることも、子どもに分かりやすい言葉を探して伝えることも、大きなエネルギーが必要です。
しかし、そのエネルギーこそが「愛情を込める」ことなのです。

小学一年生の六月、娘が初めてジャズダンスの発表会に出た時のことです。娘は出場メンバーの中で最も練習の経験がありませんでした。そこで、皆の迷惑にならないように、数カ月前から両親でダンス教室に付添いました。そこで練習のステップをメモしておき、家では毎日一緒に練習しました。
集中力が続かずに、ぼんやりしている時や、だるそうに踊っている時には、容赦なく娘を叱り、奮起させました。
時には厳し過ぎると思うこともありましたが、努力して成し遂げる事の素晴らしさを知って欲しいと願い、真剣勝負のつもりでバックアップしました。

こうして発表会の日を迎え、娘はステージに立ちました。技術は未熟ですが、心からダンスを楽しむ躍動感は観客席にも伝わってきました。
家に帰って「よくがんばったね」とほめてやると、娘から予想もしない言葉が返ってきました。
「パパが厳しく言ってくれたから、上手にできたよ。ありがとう」。
私は驚きとともに胸が熱くなりました。小さな娘が私を理解してくれていたのです。

「誰かが自分を理解してくれている、大切に思ってくれている」と感じる心の安定こそが「精神力」となり、生きる力の源となる。
この日、そのことを子どもから教えてもらいました。



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