10歳までの楽育〜第2章の6

よい土は、水が吸い込まれるようにしみ込む。

〜(4)信頼関係をつくる

水はけがよく柔らかい土は、植物にとって理想的な環境です。
根をしっかりと張り、土壌の栄養分を十分に吸収することができます。
よい土に水をやると、瞬く間にしみ込みます。

私が子どもの頃に夢中になっていたボール遊びを、近所の子どもたちに教えて一緒に楽しもうとしたことがありました。しかし、ルールの説明を始めるとすぐに子どもたちの表情は曇り始めました。そして、話を始めたばかりなのに「分からない」「難しい」など否定的な反応がありました。
「そんなに難しくないから」と私が言うと「バカだから、分かんないよ」と突っぱねられてしまいました。
たとえ遊びであっても、難しそうなことに耳を貸そうとしない態度、自分には理解できないという思い込みは、現代の子どもにありがちな傾向です。
話を聞く事ができずイライラする子は、まるで水やりをしても土にしみ込まない「乾いた大地」のようです。

その時は実際にボール遊びをしながら、ルールの説明をしました。時間はかかりましたが、なんとか一緒に楽しめました。やってみると「なんだ簡単じゃん」と子どもたちから拍子抜けするような反応がありました。
後日、私から別の遊びを教える機会がありました。前回と同様に、子どもたちは説明を聞くのが面倒そうでしたが、いくらか態度は柔軟になりました。

子どもたちの姿勢に変化を感じたのは三回目でした。それまでの態度とは一変して、遊びに興味を持っているのは明らかでした。ルールを説明していると「それはこういうことなの?」と質問がありました。今度は水が、すーっと土にしみこむように内容を理解しました。
「この人は、自分たちが知らない面白い遊びを教えてくれる」「大人だけれど、一緒に遊ぶと面白い」という前回の経験から、子どもたちと私の間に信頼関係ができたのだと感じました。

家族の間でいつも意識しておきたいことが「信頼関係」です。
【楽育】では、親子の信頼関係のために、次のような環境をつくります。
(1)大人が子どもに嘘をつかない環境
(2)家族の愛情が伝わる環境

大人の嘘は、なんとなく雰囲気で子どもに伝わるものです。そこで大切なのは嘘をつく必要のない「場」を意識することです。
たとえば、わが家ではテレビで小さな子どもに見せたくないシーンがある番組は録画をしておき、親子で一緒に見ることはありません。また、子どもの前で大人が話をする時は、その内容に気を配ります。子どもが疑問を持ち、大人が嘘の回答をしなければならないような状況を作らないようにします。

子どもが相手であれば、その場しのぎでごまかしたり些細な嘘をついた方が楽なことがあります。
たとえば、子どもが「ジュースが欲しい」と言った時に「ジュースはない」と嘘をついて諦めさせる方が手間がかかりません。一方で「ジュースは、ダメ」と言えば、子どもが泣いたり騒いだりして面倒なことになります。
しかし、そこでは子どもを説得して諦めさせるように努力することが大切です。嘘をつかないことで子どもに我慢させることになりますが、それは長い目で考えれば本人のためになることだと思います。
大人が子どもに嘘をつくことで信頼関係は損なわれ、子どもの心に反感の種をまいてしまうのです。
親子の信頼関係が築かれていれば、子どもは親から叱られた時にも、それが自分のためであると理解できるようになります。
けれども、反感の芽が根づいた子どもは、親の言葉に聞く耳を持ちません。

家族の愛情が伝わる環境をつくることは、親子の信頼関係を築くことです。
家族が愛情を伝える家の子どもは、人の気持ちになって考えることができます。一方で家族からけなされたり、バカにされる家の子どもは、人を傷つけるようなことを平気で口にするようになります。
「自分のことを大事に思っている」と家族が感じられるようにするには、どうすればよいでしょうか?
私は愛情を言葉で子どもに伝えるように意識しています。
外国の映画やドラマでは、登場人物が家族に「I LOVE YOU」という言葉で愛情を伝えるシーンがよくあります。残念なことに私たち日本人は、言葉で愛情を伝える習慣がありません。また、急に愛情を伝えようとしてもうまくいきません。
しかし、赤ちゃんの頃から声をかけて愛情を表現していれば、素直な思いを伝えられるものです。
娘が保育園の時、ほかの子と同じようにボール遊びができなくて落ち込んでいたことがありました。
そこで娘に「ボール遊びができなくても、おまえは、パパの宝物だよ」と言って励ましてやりました。

それを聞いた娘は「宝物」という言葉を嬉しそうに繰り返し
その笑顔は本当に輝いて見えました。



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