10歳までの楽育〜 第1章の4

小さい時に手をかければ、あとは自然に育つ。
〜「見た目よりも、心を育てる」


米作りには「苗半作」という言葉があります。「しっかりと良い苗を作れば収穫までの半分は成功したようなもの」という意味で使われます。植物を育てるのに一番大事な時期は、種が発芽してから根が張るまでの間です。芽が出たばかりの頃に、茎や葉が傷んだり虫に食べられると、その後の健全な成育は望めません。
ところが、小さい苗の時に精一杯手間をかけてやれば、後がとても楽になります。苗が大きくなると植物の成長スピードが上がって病気や食害に勝るのです。また、たとえ日照りが続いたとしても、根を深く張っていれば簡単には枯れません。

『3つ子の魂百までも』という諺があるように、育児においても一番大切な時期は、誕生から幼児期の頃です。
この時期には、目に見える成果よりも、子どもの心を育てることが大切です。
【楽育】では、子どもの心を植物の「根」に例えています。根は土の中にあり、私たちが見えないところで成長します。
根がしっかりと張っていれば植物は強くなり、多くの花を咲かせます。反対に根の張りが浅ければ花や枝を支える力が不安定になり、ちょっとした雨風で倒れてしまいます。
「家庭環境」が、しっかりと根を張って自立するための「土」となり、
「生活習慣」が、茎を伸ばして葉をひらく成長の「水」となり、
そして、親からの「愛情」が太陽の「光」となって子どもを育みます。

子どもが誕生した瞬間から、誰でも「幸せになって欲しい」と願い、ありったけの愛情を注ぎます。しかし、自分でも気づかないうちに愛情ではなくストレスを与えていることがあります。子どもはストレスを感じると、不安で落ち着かない気持ちになります。

ユニ・チャーム(株)の調査によると、母親の72%が育児に不安やストレスを感じているそうです。また、そのうちの85%が「パパの育児参加によりストレスの半分以上は解消される」と答えています。

母親のストレスの主な原因は「自分の時間がとれないこと」「自分の思い通りに育児ができないこと」にあると言われます。
「自分の時間がとれないこと」は、そのことを思うほどにストレスがたまります。
しかし、「忙しい」ことは自己暗示である場合が少なくありません。

自分のために欲しいのは、本当に大切な時間でしょうか?
「もっと自分の時間が欲しい」と思った時に、私は次のことを普段よりも深く考えます。
(1)「自分の時間は、何をするためのものか?」
(2)「自分の時間は、どのくらいの長さ、頻度が必要か?」
(3)「どうすれば、自分の時間が手に入るか?」
すると、自分の時間は現実逃避の幻に過ぎず、最優先で行なうほどではないことに気づきます。また、それは時が経ち、子どもに手がかからなくなれば、いくらでも取り戻せる時間であるように思います。
私たちにとって本当に大切なものは、子どもと今を一緒に過ごすことなのです。

「自分の思い通りに育児ができない」と感じる時は「完璧主義の罠」に捕まっている可能性があります。育児に完璧な正解はありません。
「○○でなければならない」という思い込みがあると、もがくほどに罠から抜け出せなくなってしまいます。
また、育児では他人の目を意識し過ぎて、ストレスを感じることもよくあります。
たとえば「赤ちゃんの泣き声を人に聞かれたら、育児をちゃんとやっていないと思われないか」など、子どもの行動で親が評価されるのを不安に思う時があります。
けれども、自分で思っているほどに、赤ちゃんの泣き声は人に不快なものではありません。私たちが住んでいた家では、近所の人から「最近、赤ちゃんの泣き声が聞こえずに寂しい」と言われたこともありました。不安は思い込みや勘違いであることが多いのです。

保育園や幼稚園へ入ると、自分の子どもをよい子に見せようとする母親がいました。
しかし、子どもに「よい子」であることを求め過ぎると、うわべだけをうまく取り繕い、思わぬところで悪い芽が出ます。
娘が通っていた幼稚園では、母親の前ではよい子でも、親のいない所では態度が豹変する子どもがいました。普段は素直に見える子が急に乱暴したり、友だちを誘ってほかの子に嫌がらせをするのを知った時には唖然としました。
親の期待が大きい子は、親の前では「よい子」であり続けようとします。
けれども、親の期待に応えられない日が来ると、簡単に心が折れてしまうそうです。
「よい子」だった子どもが、何の前触れもなく家族に暴力を振るうようになったり、自分を傷つけたりすることは、現代では珍しい例ではありません。

【楽育】では、幼児期の子どもは外見を気にするよりも、「心」をしっかり育てることが大切だと考えています。
子どもと過ごす時間は、いつも楽しいことばかりではありません。
些細なことに腹が立ったり、思い通りにならずイライラしたり、求められるばかりで鬱陶しく思えるのが日常です。しかし、それが永遠に続くわけではありません。
誕生から幼児期までの子どもの成長はたいへん早く、後になってみれば「あっという間だった」思えるものです。
私は育児がつらく感じた時は、まずは自分自身の心の中で固い土を柔らかく耕すことから始めます。
小さな苗を両手で支え、柔らかな土に真っすぐに仕立るつもりで、こう思います。
「今が一番大切な時期。やがて全てが良き思い出となる」。



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