10歳までの楽育〜第3章の19

活力のある苗は、枯れにくい。

〜「積極力の種まき」


園芸店で苗を買う時には、大切なポイントがあります。それは葉や茎の傷みや、根の張り具合などをよく見て選ぶことです。
なかでも最も大切なのは、根元や茎が太くてしっかりしていることです。苗に活力があり、成長に勢いがあるものが良い苗なのです。

「積極力」は、自分から進んで物事を行なおうとする意欲のことです。
意欲がある人の人生は、意欲がない場合よりも実り多きものとなります。
就職の面接の際に重要視されることの一つが、その人の意欲です。
その理由は、意欲に溢れる人が職場に入ると雰囲気が良くなり、全体の活力が向上します。それに対して意欲の無い人が一人増えただけで、全体の労働意欲が低下する可能性があるからです。

子どもは本来、意欲が溢れる存在です。様々なものに興味を示し「知ってみよう」「やってみよう」と自然に「積極力」の芽を伸ばせる可能性を秘めています。
しかし、大切な芽が枯れていると感じた出来事がありました。
夏休みに娘と一緒に、近所の公園でラジオ体操に参加した時のことです。そこには、朝6時半から80人ほどの小学生が集っていました。体操が始まるとすぐに私は、その場の雰囲気に違和感を覚えました。
大音量で音楽は鳴っているのに誰も体操をせず、子どもたちは人と話したり手先だけをブラブラさせて最小限の動作で済ませていたのです。
その様子を見て「最近はラジオ体操第2から始めるのかな?」と思ったほどです。しかし、そうではありませんでした。ラジオの前には、始まった時から既に長い列ができており、子どもたちは一刻でも早くスタンプをもらって、家に帰ろうとしていました。
また、その列に並ぶ意欲さえ持たない子は、顔だけ出して早々に帰宅していました。
清々しい朝の空気の中で、まるで除草剤でも散布されたかのように、子どもたちの意欲が枯れていました。
私はその場に立ち、「これは大人の世界の縮図に違いない」と確信しました。

【楽育】では、人に対して自分から声をかけることで「積極力」を養います。
自分から声をかけることは、主体性を持って行動することに繋がり、初対面の人にも臆さない度胸を身につけられます。
そこで、私が種まきとして行なったのは「朝の挨拶ゲーム」です。

娘が保育園の時、朝の登園時には保護者同士が「おはようございます」と挨拶をしていました。しかし、子どもから大人への挨拶は皆無でした。
そこで私は、娘が出会った全ての人に挨拶ができるように簡単なゲームを考えました。相手が挨拶をする前に、自分から大きな声で「おはようございます」が言えたら、すれ違った後でごほうびに「ピンポーン!」と言いました。
毎日やっているうちに次第にゲームを面白がり、「ピンポーン!」がいくつ出たかを数えて遊ぶようになりました。そして見知らぬ大人から「元気がいいね」「まあ、あいさつができるのね」とほめられると、調子にのって声が自然に明るくなりました。
しばらく続けるうちに、ゲームであることを忘れ、挨拶は習慣になりました。

幼稚園の年長組から始めたジャズダンスも「積極力」の種まきになりました。人前で恥ずかしがっていては、ダンスを踊ることはできません。ある日、先生がレッスンでこんな話をされていたのが印象に残りました。
「先生の好きなダンスは、下手でも自分の力を全部出して楽しく踊るダンス。先生の嫌いなダンスは、だらだらとして踊りたいのか踊りたくないのか分からないダンスです」。
この話を聞いて、今は娘に技術を身につけさせるよりも「楽しく踊りたい」という意欲を伸ばしてやることが大切であることを確信しました。
私たちは娘に、自分の好きなことで「積極力」を伸ばして欲しいと思いました。
そこで、ミュージカルを一緒に観たり、練習曲を車で聞かせたり、レッスンを見学して一緒に振りを覚えたりすることで、娘を支えながら一緒に楽しました。

「積極力」の種は、思いのほか早く芽を出しました。
娘が小学校に入学したばかりの頃、国語の授業であった出来事です。クラス全員で教科書の音読をしている時に、先生は娘を指名して声を出さないように言いました。
その理由は、クラス全員で音読をしているにも関わらず、教室には娘の声しか響いていなかったからです。ほかの子どもは声を出すことが恥ずかしくて、口だけを動かしていたようです。

また、初めての学習発表会では、満面の笑顔で舞台に立ち、大声で元気いっぱいに歌や踊りを披露してくれました。
それは、大人に何かをやらされている表情ではなく、表現することを自ら楽しんでいる笑顔でした。
生き生きしている娘の姿を見ていると、私たちは心の中にぱっと花が咲いたようで、幸せな気持ちになれました。

タンポポの種は、綿毛に包まれて風が遠くへ飛ばしてくれます。
「積極力」は、この風に似ているのかもしれません。
そこに留まることなく、あらゆる可能性を大きく広げてくれるのです。



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