10歳までの楽育〜第3章の16

勢いのある枝を伸ばす。

〜「想像力の種まき」


植物から勢い良く出てくる枝を「シュート」といいます。
わが家の庭では、春先になるとバラが根元からシュートを出し、すさまじい力で伸び始めます。この枝は翌年の主幹になるため、切り落とさずに残しておきます。シュートした枝では、花もまた勢いよく咲き誇ります。

子どもの話しを聞くと、大人が思いもつかない発想に驚かされることがあります。まるでシュートを伸ばすような勢いで自由な「想像力」を発揮する姿を目の当たりにすると、思わず頬が緩みます。
しかし、この素晴らしい想像力の枝が伸びた瞬間に、それを切り落としてしまう大人がいます。夢のような子どもの発想を聞くなり「何バカなこと言ってるの」「そんなはずないでしょ」など、即座に親が現実の価値観を押しつけるのです。
元気に枝を伸ばしていた子どもの表情は、この一言で曇り、口を閉ざしてしまいます。
ここでは、太陽が植物にやさしい光を与えるように「おもしろいね」「それはいいね」と、親が一緒に楽しむんでやると、子どもの「想像力」はどんどん伸びます。
「想像力」の種まきは、子どもが想像することの楽しさを知り、自分で考える意欲を育てるために行ないます。

【楽育】では、答えのないものを求めることで、「想像力」の種をまきます。
現代では自分の頭で考えず、すぐに答えを得ようとする子どもが珍しくありません。
コンピュータは答えを出すために、データベースとして膨大な情報が蓄えられます。その情報に、いつでも、どこでも、誰でもアクセスが可能な環境が「ユビキタス社会」です。
「ユビキタス社会」では、人が計算する力や物事を記憶する力は価値を失います。
今後はコンピュータが答えを出せないようなことが、人にとって重要な価値を持ちます。

インターネットの検索サイト「Google グーグル」の米国本社には、大きなホワイトボードが置かれています。そこには、グーグルズ・マスタープランとして従業員が自由な発想で仕事の夢を書き込める場所になっています。その内容を見ると電力線でのブロードバンドなど現実的なものから、太陽系を無線ネットワークで繋ぐ、瞬間移動、時間旅行、音のキャンセルなど実に多種多様なひらめきとアイデアが並んでいます。
日本の会社なら「何を夢みたいなことを」の一言で済まされそうです。しかし、ここに書いてあることをスタートに夢を叶えるための第一歩を踏み出しているのが「Google グーグル」のすごいところです。
企業間の技術力に大差がない現代では、新しいサービスや商品を生み出すことができる「想像力」が社員の一人一人に求められます。

脳の力を強化して「想像力」を広げる思考技術として有名なのが「マインドマップ」です。「マインドマップ」は、英国のトニー・ブザンが提唱した図解表現技法です。
まず、考えたい言葉を中央に置き、そこから放射状に思いついたキーワードを繋げて思考の地図を作成していきます。
トニー・ブサンの著書『ザ・マインドマップ』では「ばかげたことを真剣にやる」ことが推奨されています。「ばかげた」アイデアは、標準から大きくかけ離れたもので、飛躍的な進歩や新しいパラダイムをもたらすそうです。
わが家では「マインドマップ」を親子で作成することで「想像力」の働きかけを行なっています。読書の感想、イベントの体験記、いじめなど問題などテーマを決めて親子でアイデアを出し合うと、面白いように全体像が見え、問題点や解決方法が発想できます。
娘が小学校で漢字を学び始めてからは、毎日一文字を選んで漢字の「マインドマップ」を作成しています。たとえば「人」という文字をテーマにした時は、まず、紙の中央に円を書いて「人」の文字を書きます。次に「人」に関係する小テーマを5つくらい考えます。私と娘は「人の特徴」「好きな人」「嫌いな人」「おもしろい人」「人でない生き物」などの小テーマを考えました。
そして、それぞれの小テーマにつき3つ以上のことを書き出していきます。娘は「人の特徴」についてのところでは、「2本足で歩く」「電話ができる」「くつが揃えられる」などを書いていました。こうして、すべての小テーマについて思いつくことを書いたら「人」についての発表をします。
親子が一緒に考えることで、素晴らしいメリットがあります。それは親が子どもの想像力の芽を、ぐんぐんと引き出せることです。

娘が小学一年生の時、エコロジー関連のイベントに参加して、地球温暖化についての説明を聞いたことがありました。会場ではパネルと磁石を使って係の人が、太陽熱を地球の外へ逃がすのをCO2が邪魔していることを解説してくれました。娘には温暖化の問題もCO2が何であるかも理解できていません。しかし、係の人から話を聞いて自分なりに考えてみた結果、空にあったCO2の磁石を地中に集めました。そして「悪いCO2は土の中に閉じこめちゃえば?」と言いました。
それを聞いた係の人は「すごい!」と歓声を上げました。実は、そのような実証実験が本当に行われているのでした。大人にほめられて調子に乗った娘は、次々に思いついたことを口に出しました。その様子を見た私は『下手な鉄砲も数撃てば当たる』という言葉を思い出しました。
そして「想像力」とは下手なアイデアでも、様々な角度から発想しようとするチャレンジが大切であることに気がつきました。

1990年代初のある朝、私が朝刊を開くと三陽商会の全面広告が異彩を放っていました。メリーポピンズのように黒い服を着て黒い傘を持った人々が、あちこちに張り巡らされた電線のようなものにぶら下がっていたのです。
そして中央に書かれた文字に、私は目を奪われました。
《想像力資本主義》
お金や土地ではなく、想像力が資本を生むこと。また、あの電線のようなものが、ネットワーク社会の到来を予言していたことに気づいたのは、それからずっと後のことでした。



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